「大丈夫?華ちゃん。」

 華のところに可奈が来てくれていた。
 南田が外にいるから見てきてくれと伝えたらしい。

 またまた可奈の南田へのイメージがアップしてキャッキャッ言っている。

 いつもなら、うんざりするところだったけれど、南田の言葉に動揺が続いていて可奈のことが対応できなかった。

「それにしても寺田さんって最低!」

 一通りのことを可奈に話して、南田が助けてくれたことまでは話した。
 そこでも南田へはまたまたのイメージアップだった。


 返事をしない華に可奈は心配そうだ。

「そんなに寺田さんに嫌な思いしちゃった?セクハラで部長に訴えてもいいと思うよ!」

「あ、うん…。まぁ。」

 華はすっかり上の空だった。

 あんなに寺田のことで震えていたのに、南田の一言で寺田のことなど、どうでもよくなってしまっていた。

 未だに契約のことを話していない可奈には華が頭を悩ませていることは聞けなかった。

 相談してしまいたかったけれど、何からどうやって説明したらいいのか分からなかった。


 可奈が持ってきてくれた華の鞄を受け取るとそのまま帰ることにした。

「可奈ちん。ありがとう。南田さんのコートお願いね。南田さんにも…お礼伝えておいて。」

 本当は南田と話がしたかったけれど、部長に捕まってるみたいだし、そもそも今日はもう宴会会場に戻ったりして寺田に会いたくなかった。

 また明日聞けたらいいな。…う、うまく聞けるかな?

 その思いが明日では実行されることが難しくなることを、華はまだ知らなかった。