しょんぼりする華に声がかけられた。
「ちょっといいかな?」

 連れてこられたのはファミレスだった。
 向かいに座るその人は華を睨んでいた。

「あなた湊人のなんなのよ。」

 ドラマのようなセリフ…。でも…。

「なんでもありません。」

 本当に今はなんでもない。

 契約関係でもなければ…そうだな言ってみれば、ただの同僚ってことになる。

「嘘つかないで!キスしてるとこ見たことあるんだから!」

 華の向かいに座る女の人は怒りに任せて言葉を発した。
 怒りで眉間によったしわのせいで台無しだけれど、綺麗な人だった。

 この人が南田さんに嫌がらせする人?綺麗だし、そんなことしなくても他にいくらでもいそうなのに…。

 黙っている華にイライラした様子でまた罵りの声を上げた。

「別に私は湊人じゃなくたっていいの。
 なのに湊人は全然私になんの興味も持たなくて。どうかしてるのよ。
 だから分からせてやりたくて!」

「分かります!」

 華の前のめりな力強い同意に女の人は意表を突かれたような顔をした。

「南田さんはどうかしています!
 私なんて南田さんに振り回されるだけ振り回されて、私が南田さんを好きだと思った途端に…捨てられたようなものです!」

 華の剣幕に押され、女の人は「そう…」とだけ言った。

 華は口に出したせいで、どんどんムカムカしてきて強い口調でまくし立てる。

「なのに私の周りの人はみんな南田さんの味方ですよ?許してやってくれだ、信じてやってくれだの。
 私の友達でさえ「南田さんの良さを分かってない」て言うんです。
 あんな人、ただの無表情の変人冷血男です!」

 はぁと息をついた華にさきほどまで罵っていた女の人はアハハハハッと笑った。

「あなたバッカみたい。」

 馬鹿…。

 女の人はまだ笑っている。
 笑い過ぎて出た涙を拭きながら、今度はしんみりして話し出した。

「あなた可哀想な子ね。
 なんだかあなたを見てたら馬鹿らしくなっちゃった。
 私もあなたみたいに血相を変えてたのかと思ったら…滑稽で。
 あんな男のために。」

 滑稽…。そりゃそうだ。

 馬鹿みたいと思うのに…でも…好きになってしまった自分はもっと馬鹿だ。

 女の人は取って代わったように落ち着いた口調で話す。

「私もムキになってたのは分かってたの。でも引き際が分からなくなってたのかもね。
 それに湊人の友達が「湊人なんてやめて俺にしろ」って言うのよ。それが余計に…。
 でもそうね。その人にしてみようかしら。」

 事の発端は女の人なのに一人で答えを出して、帰るようだ。

「あの…いいんですか?」

「湊人のこと?あなた見てたらよくなっちゃった。
 あなたは…上手くいくといいわね。不思議ね。今は応援したいくらい。」

 フフッと笑ったその人は綺麗だった。

 こんな人をここまで狂わせちゃう南田さんってどんだけ…。