気づけば目からは涙があふれていて、箱ごとのティッシュが渡された。
 宗一が部屋に戻って来ていた。

「南田のことは許してやってくれ。
 元々ちょっと不器用な奴だったが、それに輪をかけることがあって…。」

 言おうか迷っているような宗一がまた口を開いた。

「どうせ明日になれば周りから聞くはめになる。
 それなら少しでも正しいことを知っておいた方がいいだろう。」

 宗一は一呼吸おいて話し始めた。

「湊人は嫌がらせを受けてるんだ。
 昔、無理矢理キスされてその写真とともに誹謗中傷の文面を湊人の連絡先を悪用され送られる。
 思い出したように、ふいにね。」

 みなみだみなと。どんな名前よ。

 初めて知った下の名前を話題にする和やかな雰囲気などないままに華は自分のアパートへ帰っていた。

 宗一が教えてくれた話が頭を巡る。

「元々は表情を表に出さない湊人をからかったらしい。
 キスしてそれを写真に撮って。
 でもそれでも何も気に留めない湊人に段々と嫌がらせがエスカレートしてね。
 黙ってても男前だし目立つからあいつ。」

 嫌がらせはダメだけど、分かる気がしてしまう。

 変わった行動をする南田さん。

 そして性格さえ良ければ…と女の子たちが嘆く風貌。

 その南田さんが自分だけを見たら…って。

 華は胸をズキッとさせた。

 何を考えてるのかしら。契約さえも解消されたっていうのに。
 華はうなだれてベッドに顔をうずめた。

 会社に行くと南田のことで部署はざわざわしていた。

「南田も終わったな」なんて言葉が聞こえてくる。

 可奈が駆け寄ってきて華を心配するように声をかけた。

「大丈夫?華ちゃん。南田さんは部長に呼ばれたって。」

「うん…。どんな内容のメールなのか私は見てなくて。」

 可奈が急いで手を振った。

「それは良かったよ。あんなの本当か分からないようなことばっかり。見ない方がいいよ!」

 そんなにひどいことが書かれていたんだ…。
 見てしまった方が自分の気持ちにも踏ん切りってものがつくんじゃないのかな。

 そう思いながらも、ざわざわする部署を後にして華はヘルプデスクに向かった。