衝撃の言葉は次のもっと衝撃を受ける言葉へと繋がれた。

「南田は色気よりも仕事を取ったわけだ。」

 アハハハッと笑い声が響く。

 色気より…仕事?どういう…。確かに元ペアの加藤さんは可愛らしい人だけど…。

 理解できないでいる華に想像していなかった言葉が届いた。

「奥村さんがキャリアアップ試験に合格すれば南田の評価も上がるもんな。」

 そんなことって…。

 華は頭が真っ白になって、どうやって席まで戻ってきたのか分からないまま仕事を再開していた。

 全く使い物にならなくなってしまった華に南田は容赦ない厳しい言葉を浴びせた。

 それでも何も心に響いた様子のない華に南田はため息をついた。

「らしくない。何を言っても食らいついてくるのが君の取り柄なのではないのか?」

 褒められているというよりも、けなされているであろう言葉を聞いても、ただ耳をすり抜けていくだけだった。

「もう定時になる。今日は帰れ。…僕も今日は帰ろう。」

 南田の言葉通り定時を告げるチャイムが流れた。
 華は抜け殻のまま帰り支度をした。

 会社の外に出ると風が冷たく頬を刺した。でもそんなことどうでも良かった。
 頭を整理できない華はボーッと歩く。

 そんな華の手が引っ張られた。

 よろめいた華を支えた南田がそのまま顔を近づける。
「やっ…」そう小さく言っても南田の顔はすぐ近くで、こんな時に限って頬に眼鏡が当たる。

 無理矢理なのに、そっと近づくくちびるは優しく触れるだけで、嫌でも感触がくちびるに残る。

 ピッ…ピーッ。認証しました。

 手を取られ認証させられた。

「どうして眼鏡…。」

 もう!そんなことどうでもいいのに。

 華はごちゃごちゃの気持ちに嫌気がする。

「当たるのを所望していたようだ。」

 え?何を…。

 南田の顔を見ても無表情で何を考えているのか相変わらず分からない。

「だいたい外で認証なんて…。」

 もう!それもこの際どうでもよくって!
 違う。本当に聞きたいのは…。

「僕もマンションの方がいいことは理解している。外では指紋認証するまで重ねていなければならないが、登録済みのマンションならすぐ離しても大丈夫だ。」

 え…。もしかしてそれで執拗にマンションに誘って…。
 南田さんも認証のため仕方なく…だから一瞬で終わるマンションが良かったってことだよね。

 別の胸の痛みを感じて華は泣けてきそうだった。