お昼はいつものように可奈と食堂で待ち合わせた。
 言いづらいなぁと思いつつ可奈にお願いしてみた。

「出退勤の時間を可奈ちんの席で見せてもらえないかな?」

「え?いいけど、華ちゃんの席で見られるでしょ?」

 そりゃそう思うよね…。でも…。

「いつも南田さんが隣に座ってるから見にくくて…。可奈ちんが言ってた南田さんのが見たいのに。」

「そっか。そっか。華ちゃんも気になるんだね。」

 満足そうな可奈に不満げな声が出る。

「そういうんじゃないけどさぁ。」

 そこまで話して向かい合わせで座る食堂のテーブルから身を乗り出して可奈の耳元でささやく。

「南田さん…。………。」

 華の言葉に可奈の可愛らしい目が見開かれた。

「華ちゃん!!み!」

 んー!んー!と可奈の口を華が押さえても尚、騒いでいる。
 しばらくして可奈が落ち着いたのを確認してから手を離した。

「ゴメン。大騒ぎして…。でも…。」

 可奈も華の耳元で続きをささやく。

「華ちゃんが南田さんのこと好きかも。なんて!」
 改めて人に言われると急に恥ずかしくなって華は顔が熱くなった。

 二人は席にちゃんと座り直すと周りに分からないように続きを話す。

「でもどうして?いつから?」

 分からない…。厳しいのは相変わらずだし、何考えてるのか分からないのも相変わらずで…。
 だけど…なんだろう弱ったところを見ちゃったからかな。
 昨日。人間っぽい南田さんを見ちゃったから…。疲れていたとは言え無防備な姿で眠ってるところとかも…。

「ねぇ?華ちゃん聞いてる?」

「あ、うん。ゴメン。でもいつからって言われてもなぁ。」

 自分だってまだ自分の心に半信半疑で、ハニートラップかどうかもはっきりしないし、それに…。
 だいたい私たちはただの契約関係だ。その言葉に胸がズキッと痛かった。

「まぁ華ちゃんがやっと良さを分かってくれて安心したよ。」

 可奈は満足そうにニコニコしている。可奈には南田との関係をなんと言っていいのか、その部分は一切話していない。

 華は複雑な気持ちなのは変わらないものの、昨日のことを思い出す。

 まだ何者かさえも分からないような南田に思わず自らキスをしてしまったことを。
 その行動に自分の気持ちを認めざるを得なかった。

 思い出してしまった昨日の出来事に華はキューっと胸を苦しくさせた。

 悔しいけどすっかり南田さんの思惑通りだわ…。自分の頬をそっと触る。
 眼鏡がいつも当たってしまっていた場所を。