次の日、少し早めに出社しても、それでも南田は席にいた。

 うぅ…。会いたくなくて早く来たのに…。顔を合わせないうちにヘルプデスクへ逃げようと思って…。

 忙しい部署で連日のように遅くなる人が多く、自然と朝はみんな遅めの出勤だ。
 必然的に定時前はちらほらとしか出社している人はいない。

 華は仕方なく挨拶をした。

「おはようございます。」

「…おはよう。何故この時間に出社したのか理解に苦しむ。」

 それ、こっちのセリフ!

 いぶかしげにこちらを見て南田は続ける。

「だいたい昨日は何故…。」

 そうだった。ちょうどいいや。

 華はポケットから小さな封筒を取り出した。

「これ私の「落し物」ではありませんので。」

 封筒を一瞥すると南田は顔を背けてパソコンに向かう。

「必要ないなら廃棄すればいい。」

 はいきって…廃棄物の廃棄?人の家の鍵を捨てるとかできるわけない。

「困ります!」

 華の言葉に耳を貸そうともしない南田は華に促す。

「じじいは朝が早い。飯野のじいさんは出社してるだろう。
 そうと決まれば即座に行動へ移せ。」

 華は南田のデスクにそっと封筒を置くと昨日の資料と筆記用具を準備してヘルプデスクへ行くことにした。

 すると自分のデスクに置かれた封筒を見た南田がそれをつかむ。

 そして…捨てた。ゴミ箱へ。

「な…。」

 なんとなく胸がズキッとするとゴミ箱から封筒を拾ってまたポケットにしまった。

 ヘルプデスクに行こうとする華に「ちょっと待て」との声をかけ、南田はパソコンの横に立てかけてある何冊かの本の中から1冊を選んで渡した。

「これ…?」

 その本は『わかりやすい機械設計の基礎』

「昔、僕が使っていた物だ。現在の僕には不必要だ。」