理解できないまま言われた席に座っていると部長がやってきた。

「すまなかったな。奥村さんと派遣の加藤さんがこちらの手違いで入れ替わっていたみたいなんだ。
 奥村さんは南田くんとが正式なペアだ。」

 相性がいい、最高の…?本当に?

 まだ現状を把握できない華に南田は容赦ない言葉をかける。

「現実は君が想定しているよりも厳しいんだ。残念だが僕は生半可な優しさは持ち合わせていない。」

 声は近寄りがたいほどに冷たく「残業するやつは無能」の言葉を嫌でも思い出した。

「奥村さん。これを聞きたいのですが…いえ。すみません。大丈夫です。」

 このような会話が今日で何度目か分からない。

 誰かが華に質問に来ようものなら、隣に座っている南田が無表情な視線を送る。
 無表情なのにいつも以上に怖い気がした。

 そして聞きに来た人は逃げ帰るように去って行った。

「君の容易さは途方もない。」

 南田のつぶやきに華は何も言えなかった。

 南田の仕事は車関係の部品設計だった。
 まだこの部署にも車関係の仕事をしている人がいることに驚くとともに、全く別の製品の仕事に覚えることは山積みだ。

 それなのに寝不足の頭は教えてもらった内容が頭からこぼれ落ちていく。
 何より南田の難解な言葉が寝不足の頭への理解を余計に阻んでいた。

「該当の製品はシボ加工をするため…。おい。耳の性能まで不良をきたしているのか。」

 何も反論できない華にもう一言あびせようとする南田の元に、昼休憩を告げるチャイムが流れた。

「解せないが、致し方ない。」

 南田は席を立ち、行ってしまった。