部屋に上がると外観に引けをとらない品のある豪華さ。広いリビングは何帖あるのか考えるのも嫌になる。

 全てに手が届くワンルームに住む華にとっては居心地が悪いことこの上なかった。

「適当に座ってくれ。」

 そう言った南田は自分の家だからなのか、リラックスして見えた。
 話す言葉も今のところ普通だ。

 それにひきかえ、華は小さくソファに座った。

「何か飲用するか?」

 グラス片手の南田に飲み物を勧められたことが分かる。
 やっぱり話す言葉は普通じゃないけど。

「おかまいなく。」

 どうにも居心地が悪く、華は鞄を膝に乗せたまま小さく座る。
 その様子にため息をついた南田は「待ってろ」と部屋を出て行ってしまった。

 しばらくして部屋に戻った気配を感じると、戸惑う間もなく後ろから手を回されてうつむいていた顔を上に向けさせられた。

「え?」と目を見開いたままの華の顔に覆い被さるように南田の顔が近づく。

 ゆっくりと重ねられたそれは、僅かに触れただけで離された。

 壁の機械から「認証しました」との音が聞こえた。

 すぐにキッチンの方へ立ち去った南田が「後で指紋認証しておいてくれ」と声をかけた。

 一瞬の出来事に頭の整理が追いつかない華は、顔が赤くなるのを感じていた。

 今回は頬に眼鏡が当たらなかった…と、どうでもいいことが頭を巡る。