テレビではキス税のことで持ち切りだ。
 スタジオで反対派の佐藤議員が声を荒げて訴えていた。

「企業との癒着がある政治家の言う事を信用していいんでしょうか?
 大沢議員はまだまだ隠蔽しています!
 私の政治生命にかけてでも正しい情報を発信していきます!」

 佐藤議員に代わってアナウンサーが話し出す。

「世間ではキス税反対派に対してハニートラップが行われていたのではないかと噂されています。
 そこで当番組はこのような映像を入手しました。」

 画面が変わると、つい立の向こう側に座る女性が映し出された。
 声も加工されている。

「私は〜キスするだけで〜すごくいいお金になるからって友達に誘われて〜。
 え〜簡単でしたよ〜。
 だってモテない男を誘惑するだけですよ〜。
 ちょっと我慢してキスするだけで〜。」

 ハニートラップか…。ひどい話だ。

「周りのみんなは騙されてるって言ってくれたのに、俺は違うって信じてたんだ。
 でも…やっぱり騙されてたんだ!」

 まぁ騙される方も騙される方だが。

 南田は冷めた視線を送り、テレビを消した。
 周りのことはどうでも良かった。

 そう。
 今までは自分以外はどうでも良かった。

 それが今はどうだろう。
 何があっても頭の中から一向に退去していかない奥村。
 南田は未だにどうしてなのか理解できずにいた。

 確かになんとも言えず可愛らしいと思うことは多々ある。愛しくも思う。
 やはりそれが好きだということなのだろうか…。

 次の朝のニュースでは、癒着があった社員の名前とハニートラップを仕掛けていた議員など数名が逮捕されたとの報道があった。

 これでひと段落するだろう。
 南田は安堵する。

 テレビでは一通りの報道が終わると、会社の社長が謝罪会見を開いた模様が映し出された。

「今回は我が社の社員が不祥事を起こし世間を欺いていたこと、誠に申し訳ありませんでした。
 大変遺憾であります。
 対策本部を設置するともに再発防止に努める次第にございます。
 わたくし池嶋は全ての問題を解決したのちに、今回の責任を持ちまして辞任いたします。」

 僕の仕事はキス税と関わりはないが…。
 会社の今後の方針次第では進退を熟考することになるだろう。

 しかし今はそれよりも奥村さんとのことを解決しなければ。