次の日の朝。
 テレビをつけるとキス税の報道ばかりだった。

 それは昨日、部長に内密に告げられた内容だった。

 テレビのアナウンサーは興奮した声を上げる。

「キス税の発案者、大沢議員との癒着があったとの情報があり、ただいま家宅捜査が始まりました。」

 大沢議員との癒着。
 それは南田の会社との癒着だった。

 出社すると職場はざわめいていた。
 事前に知らされた者は、ごく一部のようだ。

 大半の人は今朝のニュースで知ったようで、みんな口々に不安を口にする。

「大丈夫かな?うちの会社。」

「大企業だから安泰だと思ってたのに。」

「ねぇ。癒着してた社員の人って…。」

 まだニュースでは大沢議員との癒着があったと確定したわけではなく、様々な憶測が飛び交っていた。

 南田は寺田から誘われたことがあったため、取り調べの協力を要請された。

 出社したのに警察署に連れていかれる。
 関係のありそうな者たちだろう。
 数名と一緒だった。

 もちろん南田は寺田の誘いを断ったのだが、どのような誘い文句だったか、誰が指示していたかを知っているのか、など事細かに聞かれた。

 そしてそれは長時間に及んだ。
 協力しなければならないことは重々承知している。

 それにしてもやはり迷惑だ。と思わずにいられなかった。

 署内で憔悴しきった寺田を見かけても同情する気にもなれない。
 そもそも奥村にひどいことをした寺田に同情など出来るわけがなかった。

 職場に戻ることさえ出来ないまま、奥村に会うことも出来ないまま、この日はマンションに帰ることになった。
 決意した気持ちはしおれてしまいそうだったが、もうそんなことは言っていられない。

 やはり…中毒性があるようだ。

 南田は自分のくちびるにそっと触れた。
 もう何日も重ねていない。

 奥村の泣き顔が脳裏に浮かぶと愛おしくて胸の辺りが締め付けられた。

 それに寺田さんは排除されたとしても彼女のことだ。
 他に悪い虫がつかないとも限らない。

 やはり早急な対応が求められていた。