座り込んだままの奥村はコートに気がつくと見上げて南田を確認した。
 そして驚いた顔を南田に向けた。

「君が外に出たことは黙認していた。
 寒いのに帰らないとの思いでコートを拝借して来てみたら、まさかあんなことになっているとは…。
 遅くなって悪かった。」

 よほど怖かったようだ。
 奥村の目から涙がこぼれた。

 初めて見る涙だった。
 不謹慎にも綺麗だと思った。

 それでも今まで何があっても泣かなかったんだ。
 泣き顔を見られたくないだろう。

 南田は自分のコートを脱ぐと上からかぶせてやった。

 何をされたのか…。

 聞きたかったが、奥村さんは聞かれたくないだろう。
 南田はただただ黙って側にいることしかできなかった。