しばらく経つのに帰ってきた様子は無かった。
 南田は自分のコートと奥村のコートを拝借すると外に出ようと出口まで行く。

 すると寺田らしい背中と寺田に押さえつけられている人が見えた。
 それは間違えるわけがない。奥村だった。

 南田は頭に血がのぼるのを感じたが、努めて冷静に行動する。
 まず急いで宴会会場に戻ると寺田と仲がいい奴に声をかけた。

「寺田さん見なかった?
 部長が大事な話をしたいって探してたけど知らないか?
 外を見て来てくれないか?」

 あぁ、と口にした向井がノロノロと外へ向かう。

 早く!早く呼びに行けよ!!

 行ったことを確認すると他の人に声をかけた。

「部長に寺田さんが大事な話がしたいって言っていました。
 伝えてくれませんか?」

 その人が部長に伝えに行くのを確認して、外へと急ぐ。
 戻ってきた寺田に気づかれないように奥村の元へ駆けつけた。

 本当はすぐにでも駆けつけたかった。
 できれば寺田さんを殴ってやりたかった。

 …でもそれでは逆に奥村さんに危険が及ぶだろう。
 これが最善だったはずだ。

 そう自分に言い聞かせて奥村にコートをかけた。