奥村にスマホを返す宗一が「この子に説明した方がいいんじゃないのか?」の言葉を投げてきた。

「関係ない…。」

 この子に知られたくない…。

「じゃ俺のしたことの説明をするのは俺の自由だろ?」

 南田はそのことについては何も反論できなかった。
 宗一は奥村に視線を移して話し出した。

「突然で驚かせちゃったね。
 根も葉もない情報が流されたんだ。
 あなたはハッカーって知ってるかな?」

「…パソコンに違法に浸入してデータを壊したり盗んだりする人のことですか?」

「まぁそんなとこかな。
 それを南田がやられたんだ。」

「でも私は南田さんとは連絡先を交換していません…。」

 そうだ。それなのに…。

「そこは…どうやったのか分からないが…。
 でもそれほどまでにってことだ。」

 南田は目の前が真っ暗になっていく気分だった。

 もうこの子の側にはいられない。
 もう奥村さんとは無理なんだ。
 迷惑をかけるつもりはなかった。
 そしてこんな醜態をさらすつもりも…。

「俺は普段SEとして働いてる。
 だからそれなりの知識があって、悪用されたデータなんかを少しは回避することができる。」

「もういいだろ?」

 南田は立ち上がり帰ろうとする。

「おいおい。そりゃないだろ?
 ちゃんとこの子に説明してあげろよ。
 俺は席を外すから。」

 気を遣ったのか宗一は部屋を出て行った。

 ため息とともに椅子に腰を下ろした南田は口を開いた。

「契約を解消しよう。」

 南田は続けた。

「ペアも元に戻してもらえばいい。」

 僕には彼女を手にする資格など最初から持ち合わせていなかったのだ。

「やっぱり南田さんがペアを変えたんですね?」

 南田は何も言えなかった。
 代わりに奥村が続けた。

「自分勝手にコロコロ変えないでください。
 私の元ペアの内川さんは、南田さんとペアだった加藤さんとお付き合いを始めたそうです。
 それなのに仲を裂くようなそんな真似…。」

「それはすまないことをした。」

 謝罪を述べ、そのまま一番言いたくない言葉を口にする。

「君が内川さんと付き合っていたかもしれないのにな…。」

 楽しそうに内川と話していた奥村を思い出して胸をズキッとさせた。

 あのまま、あの腐っていた頃のまま、奥村さんを手放していれば、こんなことにならなかったかもしれない。

「無能って…無能って言ったくせに。
 社員だからですか?
 派遣の子より仕事の成果が出やすいからですか?
 私が総合職へのキャリアアップ試験に受かれば南田さんの評価も上がるからですか?」

「……そうだ。…そういうことだ。」

 周りで噂されていたことを聞いたのか。
 それでいい。
 そう思ってくれればいいんだ。

 南田は奥村の前から姿を消した。