まだほとんど片付けられていないというのにリビングのドアが開いた。

「玄関で待機するように告げたはずだ。」

 呆気に取られた顔をしている奥村に不機嫌な声を発した。
 つい言い訳を口にする。

「昨晩は堕落した時間に甘んじていた。
 まさかそれで今日こうなるとは…。」

 惨事を見られてしまうとは…。
 やはり今日は連れて来ない方が良かったのか。

 しかし見られてしまったものは仕方がない。
 南田は片付けを急いだ。

 あとは掃除機を…と出し始めると
「さすがにもう今日はこれくらいでいいと思います」と静止された。

「客人を迎え入れるのに完璧でないなど慙愧
に堪えない。」

 ダイニングの椅子に座り、南田はコンビニで買ったパスタを前に不満そうな声を出した。

 コンビニで温めてもらったはずのパスタは待っている間に冷めてしまって、湯気さえ立たない。
 それを手に取り「温め直そう」と小さくつぶやいて奥村にも手を出した。

「いいえ。このままで大丈夫です。
 パスタも南田さんも。」

 奥村の言葉に手を止めて南田は奥村を見た。

「私は南田さんの人間らしい一面が見られて安心しました。」

 にっこりした奥村の言葉に南田は首を振り、ますます不満げな声が転がり落ちる。

「僕だって消耗する。体も…心も…。」

 奥村さんでさえ、僕をロボットか何かだと思っているのだろうか。

 誰にどう思われても構わないが、奥村にだけは分かっていて欲しい。
 そんな気持ちだった。