「この辺で明日にしよう」と終えたのは7時くらいだった。

 自然に一緒に会社を出ると、じゃと会社の前で別れた。

 この流れでマンションへ連れ帰るのが自然な流れだが、今日は諦めよう。
 なんの準備もして来れなかった。

 残念な気持ちを見ないようにして、南田はマンションへ足を向かわせた。

 1人帰る帰り道。
 公然とキス税を認証する人を見かけると、ついため息が出た。

 本当は別れ際に認証をしてしまいたい衝動に駆られたが、それをしてしまえば、離れ難くなるのは目に見えていた。



「剛志!!お前は騙されてる!」

 怒鳴り声にそちらを見ると男女のカップルらしい人と、もう一人の男の人がいた。
 怒鳴り声はカップルの男に向かっていた。何か怒っているようだ。
 剛志と呼ばれた男は女性を庇うように立ち、反論する。

「そんなことない!
 俺だけに彼女ができたからって、ひがみだろ!」

「馬鹿を見るのはお前だぞ!
 そんな女、ハニートラップに決まってる!
 俺たち反対デモしてたからだ!」

 そう聞こえて見てみると確かに不男に美女という不釣り合いに見えた。
 この男もハニートラップなのだろうか。
 …僕には関係ないことだ。

 南田はまた歩を進めた。
 


 今日もコンビニにしてしまおう。
 それで部屋を片付けて明日にでも奥村さんを招待したらいい。

 そう気持ちを奮起させてコンビニに立ち寄った。
 パスタを見かけると美味しそうに食べていた幸せそうな奥村を思い出す。
 つい手に取って、カゴに入れた。
 体調管理も考えてサラダもカゴに入れた。

 ふと、視線に気づいて目をやると幻だろうか…。奥村が目の前にいた。

「な…。どうして君が…。」

 こんなところにいるんだと言いたげな顔を向けると、頭は高速に問題解決に急ぐ。

 何故だ。どうしてここにいる。

 奥村もカゴにパスタとサラダにデザートも入れていた。
 ここのコンビニがどうしても良かったとかか…。いや。ごく一般的な店だ。
 確か奥村さんのアパート近くにもある。

 レジにカゴを置いた奥村に、南田も自分のカゴを置くと「一緒に」と会計をする。
 まだ疑問を解決できない南田は「袋は別で」と声をかけた。

 コンビニを出ると、理解不能なまま南田はまた同じ言葉を口にする。

「じゃ。」

 奥村は心なしか寂しそうに自分のアパートの方へ足を向けた。
 その姿に我慢できなくなって声をかけた。

「おい。」

 マンションの惨事を思い浮かべ、ため息混じりに「来いよ」と言った。

 それほどまでに、この子と離れ難いとは…。