音声が流れる。

『…や。ヤダ…南田さん…やだって。』

「な…どうして…。」

 華は愕然として椅子に崩れ落ちた。

 その動画は医務室で寝ていた華が夢でうなされているところを撮ったものだった。

 寝言のため言葉は途切れ途切れ。もちろん寝ているためベッド。

 これ知らない人が見たら、どう見たって…。

 華は南田の顔を見上げる。相変わらずの無表情で心持ちが分からない。

 華はサッと南田のスマホを奪い取ると削除の方法を模索する。
 その華に無情な声がかけられた。

「複写しないわけないだろ?」

 ふくしゃ…コピーか…。そりゃそうよね。こんなの撮って私にわざわざ見せるんだ。悪巧みするためだものね。

「契約するだろ?」

 無表情な顔が無表情のままなのに、ニヤっとした気がした。


 ギリギリとした気持ちだったが、契約しないわけにはいかないだろう。
 あんなの流されたら…。

「ちょっと待ってください。その動画をどこかで流すとかそうなったら、私に名前を呼ばれている南田さんにも害がありますよね?」

「そんなの見せ方次第だ。」

 もうこの人を私が返り討ちにするのは無理なのだ。諦めよう。
 何も考えたくなくなって考えることを放棄したかった。

 そんな華に南田が顔を近づける。

「ち、近いです!」

「認証させるんだろ?」

「い、今からですか?」

「なんだ。外の方が好ましいとは理解しがたいが、致し方ない。」

「違います!こっちが理解できません。
 焼き肉ですよ?食べてすぐ…とか…。」

 何をこんな人にそんなことを…。する前提の話を何故しないといけないのよ!

「なるほど。それは配慮に欠けたようだ。
 しかし同等の物を食している。気になるものか?」

「もう好きにしてください!」

 こんなことをこの人と議論することがあり得ない!

 すると南田が手を伸ばして華の口に何かを押し込んだ。