南田は僅かに浮かれて帰宅した。
 マンションに奥村が待っているだろうからだ。

 仕事が忙しく、さすがに夕食の下準備まではして来れなかったが、一緒に作ったらいい。
 律儀な奥村さんのことだ。
 もしかしたら手料理を作って待っていてくれるかもしれない。

 玄関の前で深呼吸すると、にやけそうになる顔を無表情に変えて、そっと玄関を開けた。そしてまたそっと閉めた。
 目に入った現実を受け入れたくなかった。

 もう一度、開けてみる。

 それでも、当たり前だが、玄関に奥村の靴はなかった。

 鍵を渡すだけではダメだったのか…。
 自分の詰めの甘さに肩を落とした。

 今一度、鍵を閉めると近くのコンビニに向かった。
 早めに帰ってきたが、今日は何もする気が起きなかった。

 今日は何もしないでおこう。
 そう決め込んだ南田は意味もなくネットで気になっていることを調べる。

『政策 ハニートラップ』

 ハニートラップはどれも反対デモに参加していた男性に向けてばかりのようだ。
 そのことに少しだけ安心すると、また別のことを調べてみる。

『年下の女の子とキス』
『緊張させないキスの方法』

 この2つは何度調べても納得がいく答えは見つけられなかった。

 気づくとそのままリビングで寝ていたらしかった。
 早朝に目が覚めるとシャワーだけ浴びて急いで出社した。

 夕方から残業をすると奥村に気を遣わせることに気づいて南田は朝早くに出社することにしたのだ。