南田はため息をつくと思い巡らせた。

 もし奥村さんと出会わずに加藤さんが最高の相性だと、今のようにペアになったらどうしていただろうか。
 先ほどのアーティストの話を喜んで返答できただろうか…。

 …否。
 ファン仲間を作りたいと思ったことはない。

 そして、あそこまで棘がある言葉は吐かずとも、会社に言われた最高のペアを信じるような言動に吐き気は覚えたはずだ。

 やはり僕にとっての奥村さんは何ものにも代えがたいものだ。
 どうしてか…考えても答えは出ないが、ただこれだけは明確だ。

 僕は奥村華じゃなければ嫌だ。


 悩んでいたのが嘘のように頭がスッキリして、その日はよく眠れた。

 奥村さんじゃないとダメなのだから、自分の取るべき行動は歴然たるものだった。


 出社すると久しぶりに奥村を探す。

 久しぶりに見た奥村はずいぶん疲れているようだ。
 南田は誰にも気づかれないように奥村の出退勤の時間を調べた。

 ペア制度が始まってから確実に残業が増えていた。
 これではいつ体を壊してもおかしくない。

 内川さんはペアなのに奥村さんのケアも満足にできないのか!
 憤慨する気持ちを抑え、何食わぬ顔で仕事をした。

 自分が腐っていたせいで、この何日間か、奥村のことを気にかけてやれなかったことが悔やまれてならなかった。