南田に連れて来られたのは有名焼肉店の個室だった。

 もしかしてこの人ってお坊ちゃまとかそういう…。

 しかも個室にはキス税を認証する機械が部屋に設置されていた。
色々な意味で居心地の悪さを感じて小さくなりつつ座った。

「遠慮はするな。…と言っても食物を摂取できる状態なのか?」

 摂取できる状態…。体調は大丈夫?ってことかな。

「そういえば昨日の夜から食べてなかった…です。」

「極めて怠惰な生活だな。」

 誰のせいよ…。

 むくれる華をよそに南田はメニューを開く。そしてスープが載っているページを差し出した。

「この辺りなら摂取できるだろう。」

 この人、優しいのか…なんなのかしら。

 一人苦笑していると無表情なまま南田は首を傾げていた。

 華はスープを飲むと胃が落ち着いてきたのを感じた。
 さすがにすぐに焼肉なんて1日絶食した体には無理だっただろう。

 スープで落ち着いたお腹に少しずつご飯やお肉を入れる。

 そういう気遣いはできるってことなのかなぁ。でも…女の子との食事でいきなり焼肉って…やっぱり変わり者。

 そして全くもって人間とは思えない南田の食事風景は華にとって不思議で仕方なかった。

 ものすごく美味しいお肉なのに顔色ひとつ変えない。

 ある意味すごいなぁ。そんなことを思っていた。

「ところで契約についてだが…。」

 ゴホゴホ…ゴホッ。

 咳き込む華にそっとお茶が差し出された。
本当にこの人って理解できないわ。

「契約はしません。何度言ったら分かってもらえますか?」

 南田はため息混じりに言葉を続けた。

「キス税は毎日しないと意味がない。」

「それくらい知っています。」

 キスの認証は1日に何度も認証すればいいわけではない。

 もちろん、それを貯めておくこともできない。免疫力アップを狙っての政策なのだ。

 毎日、免疫力を上げなければなんの意味もないことは分かる。

「理解しているのなら、どうして断るのかが理解不能だ。
 1回だけでは免除される額は微々たるものだぞ。」

 つまり認証した日数と税金がかかる日数との差が、納めなければならない税金となる。

 毎日認証できれば完全に免除だが、1日だけではほぼ意味がなかった。