南田は部屋の片付けに追われていた。

 普段から自分のペースを守ることを遵守していたが、最近は奥村との契約締結に向けて慌ただしかった。

 そもそも彼女をここに呼ぶのだ。完璧にする必要があった。

 見られては困るようなものは自室にしまい、掃除が終われば喜んでもらえるように夕食の下準備もした。

 もちろん夕食の準備をしてあると提示すれば帰りにくいだろうという下心も多分にあった。

 昨日の帰り際にマンションの住所を走り書きさせたメモを渡していた。

 お昼過ぎに伺います、と言った奥村。
 連れて帰れずとも約束を取り付けたのは喜ばしいことだった。

「スマホも携帯も持たない」と言い連絡先は教えなかった。
 教えてしまえば色々と不都合が生じると思ったからだ。

 律儀な彼女のことだ。
 約束した手前、必ず訪問するだろう。

 気もそぞろな南田は昼食もそこそこに今か今かと奥村の訪問を待ち望んでいた。