今日こそは契約の締結をしなければ。

 との思いから南田は定時に仕事を終えていた。

 そもそも仕事からも何からも振り回されるのは、まっぴらだ。
 と常々思っている南田はよほどのことがない限り残業をしていなかった。

 何かに振り回されて生活が乱れるなど…。

 そう思っているのに、ここ何日か奥村との契約に振り回されていた。
 元々は自分が蒔いた種ではあるが…。

 そういう今日もいつになるか分からない奥村の帰りをカフェで待つことにした。


 窓際でコーヒーを飲んでいると、思いの外、早くに会社から出てくる奥村の姿を視界に捉えた。

 急いで会計を済ませると、平静を装って隣を歩いて声をかける。

「今日は迅速な対応をしたようだ。」

 また驚いている様子の奥村がなんとも言えなかった。
 しかし南田にかけられる声は冷たい。

「南田さんには関係ないことです。」

「話し合いが必要不可欠だ。
 まだ契約を締結していない。」

 冷たい態度にもめげずに、決めていた台詞を口から吐き出した。

「連れて行きたいところがある。」

 奥村の返事も聞かずに早足で前を歩く。

 返事を聞いてしまったら負けのような気がして有無を言わさずに連れていった。