南田は静かに話し合いができる場所として、焼肉店の個室を選んだ。
 個室なら誰にも邪魔されず尚且つ逃げられずに済む。

「遠慮はするな。
 …と言っても食物を摂取できる状態なのか?」

 体調が芳しくないことは店を選んだ昨日の段階では考慮に入れようがなかった。

「そういえば昨日の夜から食べてなかった…です。」

「極めて怠惰な生活だな。」

 やはり長時間労働が彼女を蝕んでいる。

「この辺りなら摂取できるだろう。」

 スープを勧めると奥村は苦笑した。
 また自分が求めている笑顔とは違う笑顔に、無表情なまま首を傾げた。

 どうして前のように笑わないんだ。

 南田は奥村と向かい合って食べることに緊張していた。
 それを悟られないように無表情を貫く。
 もちろん肉の味など分かるはずもない。

 奥村は実に美味しそうに食べていた。

 この子の笑顔を引き出すには餌付けしかないのか…。

 何度目かの自分の無力さを感じていた。