南田はテレビから流れるキス税のニュースを感慨深く眺めた。
 今までは自分には関係ないものとして遮断していた情報が鮮明になって目に映った。

 老夫婦がキス税によって仲を深めたインタビューは南田の心を温かくする。

 しかし今のままでは奥村に嫌悪感を抱かれても致し方ない。
 それなのに対応策は何も思いつかない自分に、ほとほと呆れ返っていた。


 職場についてしばらくすると奥村が出社したことを視界の端にとらえた。
 なんだか様子がおかしい。

 それなのに何故、上司は何も気付かないのか…。

 憤慨する気持ちを抑えつつ南田は奥村を気にかけながら仕事をした。


 どうにも様子のおかしい奥村に意を決して話しかけようと南田は席の近くを通る。

 偶然を装っていたつもりだったが、装えていたのかは分からない。

 だが、それも無駄に終わってしまった。

 ふらついた奥村につい名前を呼び、抱きかかえてしまったのだ。
 周りがざわついているのが分かる。

 それらを気に留めないように奥村を医務室に運んだ。

 連れてきた医務室のベッドに寝かせる。

「あら。貧血か何かで倒れたの?」

 看護師に声をかけられ、首を振る。

「分からない。たぶん疲労からだろう。
 連日の残業を余儀なくされている。」

「そう…。顔が青白いわね。
 疲労だけなら寝てれば治るかしら。
 今日、私は定時に帰ってしまうの。
 定時にあなたこの子を見に来れる?」

「はい。ではそれまではお願いします。」

「はいはい。こちらこそ定時後はよろしくね。」

 にこやかな看護師に安堵して奥村を任せて職場に戻った。