「…驚愕の事実だ。
 この設計を君がしていたとは。」

 キス税を認証する機械。
 そうかその仕事をしているとは。

「なんとも皮肉だな。」

 悩んでいる機械を設計しているとは可哀想な子だ。

 南田は奥村の隣のデスクに腰をかけた。

 とりあえずこの子の仕事を終わらせなければ、昨日の話などできない。
 決して問題を先延ばしにしたいわけではない。

 そう自分に言い訳をすると、資料に目を通した。

「なるほど今の機械をこう設変するのか。
 使いやすくはなるか…。」

 この子は一般職のはずだが、ずいぶんと込み入った仕事を任されているようだ。

「理解した。
 ここはこうしたらこうじゃないのか?」


 仕事の話ならスラスラと言葉が出てくるのに、どうしたものか…。

「もう今日は遅い。
 明朝から取り掛かれば間に合うはずだ。」

 奥村の抱えていた仕事の問題は解決しそうだ。
 しかし南田はもっと早急に解決しなければならない問題を抱えている。

 奥村に視線を移すと、ぼんやりこちらを見ていた。
 じっと見られ、また動揺してしまいそうだ。

「おい。穴が開く。」

「え?」

 ぼんやりした顔がハッとした顔に変わる。
 その顔に重ねて訴える。

「顔に穴が開くと言っている。」

 そんなに見られると恥ずかしいなど口が裂けても言えない。

「ごめんなさい。ボーッとしちゃって。
 仕事のアドバイスありがとうございました。分かりやすくて助かりました。」

 あぁ。と小さな返事をして、素直なお礼にほころんでしまいそうな顔を誤魔化すように席を立った。

 奥村もそれに続くようだ。