「キス税を払うのが嫌なんだろ?だったら僕と契約して僕としたらいい。」

 キス税の認証機械の前でため息をついていた子が振り返る。

 奥村華。

 目を見開いて言葉を失っている姿がなんとも言えない。

 南田は言葉を重ねた。

「僕と契約しないか?」

 それでも言葉を発しない奥村はまじまじと南田をみつめてきた。
 動揺を悟られないように、南田は計画していた言葉を口から滑り出させる。

「高い税金を払うのを躊躇しているんだろ?悪い話じゃないと思うんだが?」

 どのような返事が来るだろうか。

 キスしてくれる人を探してるんです。
 と言うのだろうか。
 そしたら正してやればいい。

 キスをすれば税金が免除されるキス税を悪用して、誰かれ構わず相手を探すような子ではないはずだと心のどこかで願っていた。

 しかし待てど暮らせど返事は返って来ない。
 本当にキス待ちと呼ばれることをしていたのだろうか。

 キス待ち。

 キス税のことを調べていたら出てきた言葉だった。
 認証機械の前でキスの相手を募集するというのが流行っているらしかった。

 そんな子ではないはずだ。

 そう思いながらも、つい南田は怪訝そうな声が出てしまう。

「聞こえているのか?
 キス税を払うのが嫌なんだろ?
 だったら僕と契約して僕としたらいい。」

 そうだ。どこの誰だか分からない奴より、僕の方がこの子に適任のはずだ。