次の週、月曜に出社すると相原の下で働くという奥村を探す。

 相原に指導を受ける姿を確認できた。
 あの飲み会では想像できない真剣な顔だった。

 食堂でも奥村を探す。
 吉井と仲がいいようだ。
 吉井と話している時はいい笑顔だった。

 あの笑顔を僕に向けていたのだろうか。
 もう一度あの笑顔を僕に向けることはできるだろうか。


 ある日、南田は奥村が認証の機械の前でため息をついているのを目撃する。

 そうか…。
 奥村さんもキス税が嫌なんだな。
 しかし、嫌ということは相手がいないのか。

 南田は心なしか喜ばしい気持ちになって帰宅した。
 そしてスマホでキス税について検索してみた。

 自分は税金を払えばいいという考えだったが、そのことに悩む人もいるのだと新しい思いを発見した気分だった。

『私たちキス税がきっかけで付き合うようになりました』

 そんな書き込みに目を奪われ夢中でスクロールする。

 他にも悪い書き込みだったが、税金を納める事を嫌がっている子に上手く言い寄っていく方法なども書かれていた。

 南田もつい思いつきで検索してみた。

『認証 税金 騙す方法 誘い方』

 そこにはこう書かれていた。

『キス税を嘆く女の子は深層心理ではキスする相手を求めている!
 認証の機械前でため息をついていたらチャンスです。』

「チャンス…か。」


 次の日も認証機械を見て奥村はため息をついていた。

 この子は誰かを誘っているのだろうか。
 そうであるなら自分を軽んじてはいけない。

 注意すべきか…。


 その次の日もため息をついていた。

 今日こそは注意しよう。
 そうだな。
 ただ注意するだけでは芸がない。

 南田は少し意地悪をしてやろうと計画を立てた。

 そして声をかける。

「キス税を払うのが嫌なんだろ?
 だったら僕と契約して僕としたらいい。」

 思った通り目を丸くした奥村に南田は気づけば、計画以上のことをしていた。

 頭にはネットで見た「チャンスです」の文字が浮かんでいた。