行くあてもなく廊下を走り抜ける。


すると、途中で誰かとすれ違って、ふいに引き止められてしまった。


「おい、柏木!?」


この声は矢吹くんだ。


どうしてこんなタイミングで誰かと会ってしまうんだろう。


矢吹くんは私の腕を掴むと、泣き顔を覗き込んでくる。


「お前、泣いてんの?

どうしたんだよ」


「だ、大丈夫だから……っ」


彼の手を振り切っていこうとする。


「待てよっ!」


だけどその力にはかなわなくて、すぐに腕をまた引き寄せられてしまった。


「は、離して……っ!」


「離すかよ」


「……っ!」


彼はそのまま私をギュッと腕の中に閉じ込める。


「ちょっ、矢吹くんっ?」


「お前がそんな顔してるのにほっとけるわけないだろ」


「……っ。

大丈夫だから。離して……っ」


「嫌だ。離さない」