途中、疲れたので一呼吸おいて、それからもう一度手を伸ばしてみる。だけどやっぱりうまく消せなくて。


どうしよう……。


すると次の瞬間、急に背後に人の気配がしたかと思ったら、右手が何か温かいもので包まれた。


……あれ?


同時に耳元で響く意地悪な低い声。


「なにしてんだよ。全然消せてねーじゃん」


「わっ!」


驚いて後ろを振り返ったら、そこには呆れたような笑みを浮かべる矢吹くんの姿が。


「あっ、や、矢吹くんっ……」


矢吹くんは私の右手を黒板消しごと掴んでいて、後ろから体ごと覆われているみたいな何ともいえない体勢に思わずドキッとしてしまう。


「貸せよ。俺が消す」


だけどすぐにそう告げると、私の手から黒板消しをサッと奪って、そのまま背伸びもせず板書の字を楽に全部消してしまった。


さすが、背が高い人が消すと早い。