私は手すりに近づくこともできず、人の隙間からコートを覗く。
すると、ちらりと楓くんの姿が見えた。
黄色い声援に応えるように、コートでアップをしていた楓くんが笑顔で2階に向かって、ひらひらと手を振った。
途端に「きゃーっ!!」と、絶叫にも似た歓声があがる。
す、すごい人気……。
「楓くん、フェロモンすごすぎ……」
「なんであんなにかっこよくて、色気もあって、完璧なんだろう……」
楓くんのかっこよさに胸打たれたのは、私の前に立つ女子3人組も例外ではなかったようで、溜息の混じる恍惚とした声が耳に届いてきた。
いけないと思いつつも、楓という名前が出てくると、ついつい3人の話し声に神経を向けてしまう。
「楓くんの彼女になりたーい!」
「西高の女子は、だれでも一度はそう思うよね」