【完】君しか見えない



そうやってお互いの手の温もりを感じあっていると、上目遣いでこちらを見たまま、楓くんがつぶやく。



「やばい。今すげぇ幸せだわ」



「私も。すごく幸せ」



じんわりとつぶやくと、楓くんがいつものクールな表情はそのままに、少しだけ瞳の奥に温もりを滲ませて口を開いた。



「なぁ、十羽。
じーちゃんばーちゃんになっても、一緒にいよ」



「え?」



思わず呼吸が詰まって、楓くんを見つめる。



なんてことないことのようにさりげなく放たれた言葉が、ぐわんと心を揺らす。



「……それって、プロポーズ、的なやつですか?」



「そーなんじゃね?」



「私で、いいの?」



思わずそう尋ねると、楓くんが立ち上がり、私の頭の上にぽんと手を乗せた。



そして視線をそらせまいとでもするように、まっすぐ私を見おろす。



「俺はおまえしか考えらんねぇし、おまえじゃなきゃ嫌だ」



子どもに言い聞かせるように、一言一言しっかり声にしてくれる楓くん。