【完】君しか見えない



「これはリハビリ頑張るしかないね」



気合いを入れ直したところで、 くしゅんとくしゃみが出た。



2月になったばかりの外気はまだまだ冷たい。


もう少し着込んでくればよかったと思っていると、不意に車椅子が止まって、楓くんが車椅子の前に回り込んだ。



そして、唐突に自分が着ていた上着を脱ぎ始める。



「おまえ薄着すぎ。着とけよ、これ」



「え、そんな悪いよ」



「いーから」



強引に、私の肩に上着をかけてくれる楓くん。


それと同時に、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。



楓くんは車椅子の前にしゃがみ込むと、私を見上げた。



「体、冷やすんじゃねぇからな」



「うん、もう大丈夫。
ありがとう、楓くん」



「おまえをあっためるのは、彼氏の役目ですから」



私の手の上に楓くんのそれが重なって、微笑み合う。