【完】君しか見えない








「──わ、おい、十羽」



不意に、私の名を呼ぶ声にピントが合った。



それによって、過去へと馳せていた意識が現実世界に引き戻された。



視界に野外の景色が映る。

耳には、ゴロゴロと車椅子の車輪がアスファルトの上を走る音が流れ込んでくる。



〝今〟の世界が眼前に広がった。



「デートだっつーのに、なにぼーっとしてんだよ」



私の車椅子を押しながら、楓くんが頭上で不服そうに言った。



「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた」



斜め上を仰ぎ見て、笑いながら謝る。



──意識を取り戻してから、数日。


あの日意識が戻ったのは奇跡だと、担当医に言われた。