【完】君しか見えない



楓くんの姿が離れていき、そして、吸い込まれるように曲がり角に消えて行く。



ついに姿が見えなくなったその途端、ふっと笑みが消え、そして。



「……ふ、うぅっ……」



ピンと張っていた糸がぷつんと切れたように涙腺が決壊し、その場に崩れ落ちた。



だれにも聞こえるわけないのに、嗚咽が洩れる口を抑える。



最後の〝また明日〟だった。



明日は〝さよなら〟を言わなくちゃいけない。



明日は泣かないから、今だけは。



「うぅ、あぁ……」



好きだよ、楓くん。



思い返してみると、頭を埋め尽くすのは楽しい思い出ばっかりで。



この先、自分の体がどうなるかわからなくて怖い。


だけどそれ以上に、楓くんにさよならを告げるのが怖い。



君の眼差しの先に、ずっといたかった。


ただ、それだけだった──。



私は涙腺が壊れたかのように、その場に座り込んで泣き続けた。



そんな私を、頭上では満天の星空が静かに見下ろしている。





──そして、君にさよならを告げる日がやって来た。