【完】君しか見えない



再びうつむいて心を整えると、私は明るい声を上げた。



「ごめんね、引き止めちゃって」



言いながら、楓くんの手をぎゅっと握りしめていた両手を離した。



そして数歩下がると。



「じゃあ、また明日」



私は笑ってそう言った。



ちゃんと、笑えた。



「ん、また明日な」



楓くんが小さく微笑み返し、軽く手をあげて歩きだした。



その後ろ姿に向かって、笑顔で手を振る。