【完】君しか見えない



「涙腺ゆるすぎ。泣き虫十羽ちゃん」



からかうように苦笑しながら、楓くんが私の頬を濡らす涙を拭ってくれる。



私の心ごと包み込んでくれるこの手が、この声が、この笑顔が大好きで。



まだ、離れたくない。



「ごめん、少しでいいから……ぎゅって抱きしめて」



囁くように嘆願した次の瞬間にはもう、引き寄せられ、楓くんの腕に包まれていた。



涙を止めなきゃ。


楓くんに心配はかけられない。



そっと体を離すと、私は楓くんを見あげて笑った。



「よし。楓くんパワー、充電できた」



「満タン?」



「うん、満タン」



そろそろ、お別れの時間だ。


これが、最後の〝また明日〟。



楓くんの前では笑って、笑って、笑って。