「ん?」
どうしたの?というように訊き返すと、楓くんがふっと表情を緩めた。
「俺のこと、彼氏にしてくれてありがとな」
「楓、くん……」
不意を突かれて、思わず目を見開く。
予想もしなかった言葉だった。
涙がこみあげてきて、慌ててうつむく。
鼻の奥と胸が、なにか刃物で傷つけられたように痛い。
違うんだよ、ごめんね。
私は、これから別れを告げようとしている、だめだめな彼女なんだよ。
「十羽?」
異変を感じたのか、私の顔を覗き込もうと首を傾げる楓くん。
優しくて甘い楓くんの香りが鼻をつき、次の瞬間、考えるよりも先にその腕を掴んで、楓くんの唇に自分のそれを押し当てていた。
我慢が、できなかった。


