苦しいこと全部ひとりで引き受けて、俺の前ではそんな姿見せまいと笑って。
最後までおまえは、〝俺のため〟だった。
「楓くん、久しぶりっ! 驚いた?
楓くんに会いにきたんだよ」
俺に会いにきてくれた十羽。
『こういう場所、すっごく好き!
連れてきてくれてありがとう、楓くん!』
タンポポ畑に連れて行った時、心から幸せそうに満開の笑顔を咲かせた十羽。
『涙腺、緩くなっちゃったかなぁ』
告白した時、涙を流しながらへにゃりと笑った十羽。
『楓くんが、私のことを幸せにしてくれてるんだよ』
俺をまっすぐに見上げて、昔よりもずっと大人びた微笑を浮かべた十羽。
『楓くんのおんぶ、久々ー』
海ではしゃぐ十羽。
『だれより、幸せになってね』
最後の瞬間まで涙を見せず、笑っていた十羽。
──俺は、おまえを手放したくない。
下唇をかみしめると、血が滲む味がした。
どんなに頬に当たる空気が冷たくても、走る足は止まることを知らなかった。


