教科書がつまったランドセルを前に背負って、背中には私をおぶって。
小学生の体では耐えられないくらい重いはずなのに、楓くんはそんな素振りひとつ見せなかった。
そして波打ち際ギリギリのところを、押し寄せる水から逃げるみたいに走って、私を笑わせてくれた。
『わー!見て、十羽ちゃん。
水が迫って来たー!』
『あはは、逃げて逃げて、楓くんっ』
一瞬にして膝の痛みはどこかに飛んで行ったっけ。
楓くんは私を笑顔にする魔法のかけ方を知ってるんじゃないかって、そう思ってた。
今でもたまにそう思う。
楓くんは、私にとってあの頃からずっと強くて優しい王子様であり、スーパーマンでもあって。


