「涙腺ゆるすぎ。泣き虫十羽ちゃん」
からかうように苦笑しながら、涙が伝う白い頬を両手で拭ってやる。
すると、ふと声のトーンを落として十羽がつぶやくように言った。
「ごめん、少しでいいから……ぎゅって抱きしめて」
キスの前からずっと目が合わなくて、十羽の表情がわからない。
でも俺は、引き寄せるように抱きしめた。
多分、抱きしめたいと思っていたから。
体を離すと、やっと顔を上げた十羽の頬から涙は消えていた。
「よし。楓くんパワー、充電できた」
「満タン?」
「うん、満タン」
そう言ったきり再びうつむいて黙っていたかと思うと、数秒経って、明るい声を上げた。
「ごめんね、引き止めちゃって」
その言葉と共に、俺の手をぎゅっと握りしめていた両手が離れていく。


