「十羽?」
なんとなく異変を感じて、首を傾げ十羽の顔を覗き込もうとする。
次の瞬間。
腕をぎゅっと掴まれたかと思うと、背伸びをした十羽の唇が、俺のそれに重ねられていた。
不意打ちすぎて、思わず思考が停止する。
キスは、そっと触れるだけの一瞬で。
踵を落とすと同時に十羽がうつむく。
「……なんで、泣いてんだよ」
我に返って真っ先に口から出たのは、それだった。
十羽が、泣いていた。
俺の指摘に十羽はぎゅっと下唇を噛みしめ、そして目を伏せたまま口を開く。
「楓くんのことが、好きだからだよ」
口角を上げ、明るくトーンを上げているその声は、涙に濡れていた。
「ほんとに、ずるいんだもんなぁ、楓くんは」
拗ねたように笑んで、鼻をすする十羽。


