歩き始めて数十分後、十羽の家まで続く細い路地の前まで来た。



足を止めた十羽が俺に向き合う。



「じゃあ、ここで。
送ってくれてありがとう」



「十羽」



名前を呼びながら、肩下まで伸ばされた十羽の黒い髪を撫でる。



「ん?」



「俺のこと、彼氏にしてくれてありがとな」



言おうと頭で考えていたわけではなくて、こぼれるように言葉が実体を持っていた。



「楓くん……」



てっきり笑顔が返ってくると思ったのに、予想に反して十羽はうつむいた。