ひとけのない田舎道をふたりで歩きながら、俺はぽつりと呟く。
「幸せにしてやるって言ったのに、全然十羽のこと幸せにしてやれてねぇな」
後悔が滲んだ声は、白いもやとなって夜空に吸い込まれていく。
すると十羽が前を向いて歩きながら、首を横に振った。
「ううん。幸せだよ」
自分の言葉に確信を持たせるかのように、繋いだ俺の手を握る力を強める。
「世界で一番、ううん、宇宙で一番幸せ。
だって、大好きな楓くんの彼女になれたんだから」
そしてこちらを見て、目を細めて微笑んだ。
「楓くんが、私のことを幸せにしてくれてるんだよ」
噛みしめるように優しく紡がれた一文字一文字が、暗闇に溶けることなく俺の胸に届く。
再び前を向いた十羽が、不意に先程までとは打って変わって弾んだ声をあげた。
「あっ、見て、楓くん!
シリウスだ」
俺にも教えるように、シリウスがある方を指差す。
いつだって、嬉しいことがあると俺に分けようとする十羽。
気づけば──俺はその体を後ろから抱きしめていた。


