真剣に私を見つめていた楓くんが、ふっと眉尻を下げて笑った。



「十羽しか、好きになったことねぇよ」



「その台詞は、ずるい」



顔を赤らめながら、見上げるようにそう言うと。



不意に楓くんが顔の角度を変え、顔を近づけてきた。



あっ──



……パシッ



思わず伸びていた手。



私の両手は、唇が触れる寸前で、楓くんの口を塞いでいた。



「……ここまで来て焦らされなきゃいけないわけ?」



手を離すと、楓くんがキレる寸前の笑顔を浮かべていて。



笑ってるのに、目が怖い……!



──だけど。



私は下唇を噛みしめると、楓くんの瞳をまっすぐに見つめた。



「ちゃんと、楓くんの顔見たくて」



楓くんがわずかに目を見開いた。



この瞬間を忘れたくない。


しっかりと噛みしめたい。