【完】君しか見えない



楓くんはいただきます、と小さく声にし、そしてまだ湯気の立っているハヤシライスを一口掬って口に運んだ。



ハヤシライスを作るのは、得意とは言え、実は久しぶりだった。



美味しくできてたらいいんだけど……。



咀嚼する様子を、緊張しながら見つめる。



「……どう?」



恐る恐る尋ねると、楓くんがふっと目元を緩めた。



「すげー……。懐かしい味」



「ほんとっ?」



「十羽のハヤシライスは、やっぱ格別」



「良かったぁ」



自然と笑みがこぼれる。



こんなことしかしてあげられないけど、楓くんの夕食に温もりを添えられたらと、ずっと思ってた。



今日みたいに出張がない時も、おじさんはきっと仕事で夜遅くまで帰ってきていない。



ひとりで夕食を食べるのは、仕方がないとは言え、やっぱり寂しいから。



楓くんのためになにかをできるなんて、夢のよう。