【完】君しか見えない



「……っ」



「味見」



おたまに口をつけながらこちらを見上げるその仕草が、表情が、あまりに色っぽくて思わず息が詰まる。



楓くんが私の手を解放し、お玉を持ったままの手が宙ぶらりんになった。



「余計なこと考えてないで、ちゃっちゃと作れよ。
俺、腹減ってんだから」



そう言いながら、私を取り残して出ていく楓くん。



心を大いに乱された私は、ひとりキッチンに立ち尽くす。



握られた手が熱い。