【完】君しか見えない



でも……やっぱり……。



「かっこいい……」



「なにが?」



恍惚とした声が漏れた次の瞬間、突然背後から声が飛んできて、私はお玉を持ったまま肩を大きく跳ねさせた。



「わっ、楓くん!」



いつの間にか、楓くんが冷蔵庫にもたれかかるようにして背後に立っていた。



よこしまな思いにすっかり気を取られていたせいで、リビングから楓くんが姿を消したことに、まったく気づかなかった……。



「なにがかっこいいって?」



うっ……。



しどろもどろになりながら、上擦った声をあげる。



「……あの、その、く、」



「く?」



首から鎖骨へのラインが……

なんて変態ちっくすぎることを、好きな人に正直に言えるはずもなく。



「く、黒瀬くんが……!」



「はぁ?」



端正すぎる楓くんの顔が、不機嫌に歪んだ。