【完】君しか見えない



「それにしても久しぶりだなぁ、楓くんの家に上がるの」



「和んでないで、ちゃんと説明しろ。
こんな時間になんの用?」



反対側に座る楓くんの導火線に今にも火がついてしまいそうだから、私は真面目な顔を作り、本題を切り出す。



「実はね、楓くんの夜ご飯作ろうかなって」



「は?夜ご飯?」



「もう用意しちゃってた?」



「や、まだだけど」



「昨日楓くん、おじさんがしばらく出張だって言ってたでしょ?
だから、ハヤシライス作ってあげようと思ったの」



「ふーん、そういうこと。
それなら、最初っからそう言えっつーの。
別に断ったりしねーし」



「ちょっとサプライズっぽくしたくて。
驚いたでしょ?」



「そりゃ驚くわ。
ったく、家にほいほい上がっちゃって、おまえは警戒心の欠片もねーのな」



頬杖をつき、ぼそっとため息混じりにつぶやく楓くん。



でも、その言葉の意味がわからず、頭の中にクエスチョンマークが浮かぶ。


昔からよく知ってる楓くんを警戒したりなんて、しないのに。