顔が上げられず俯いていると、地面しか映していなかった視界の上部に楓くんのローファーが映り込んだ。
「なぁ、十羽」
楓くんの声が降ってくる。
でも、その声色には優しさが1ミリもこもっていなくて、なぜか瞬時に嫌な予感が頭の中を走った。
だけど、そんな私の気持ちなんてお構いなしに、楓くんは冷たい声を落とした。
「知ってる?
男っていうのは、好きでもない相手にだってキスくらいできんだよ」
「……っ」
近くから降ってくるのに、それはどこか遠くから聞こえる声のように感じられた。
……わかってた。
『十羽は幼なじみだよ。
それ以下でもそれ以上でもない。
ましてや恋愛感情を抱くなんてありえないよ』
数年前、彼がそう言うのを、私はちゃんとこの耳で聞いていたのだから。
キスくらいで意識してるおまえはバカだと、そう言われた気がした。
──現実を、突きつけられた。