ふたりの間になにがあったんだろう……。



木製の硬い長椅子に座りながら、ぎゅっと拳を握り数メートル先の男女を見つめていた、その時だった。



「もう知らない!最悪!」



女の人がそう叫んだかと思うと、突然肩にかけていた高そうなブランド物のバッグの中から、ペットボトルを取り出した。



あっと思った次の瞬間には、その蓋は開けられ、

パシャンッ……

派手な音を立てて、楓くんの顔面に向かって水が放たれた。



「……っ」



思わず口に手を当て、息をのんだのは私。



楓くんは水をかけられたというのに、反応ひとつ起こさない。



「こんなに好きなのに!
楓のわからず屋っ!」



女の人は捨て台詞を吐いて走り去って行ってしまった。



ヒールの音だけが、静まりかえった景色の中に色を作る。