「もう着くから。」
続けて彼が口を開く。
「うん。」
とは言わなかった、
「早く来てよ。」
そんな風に私は言ってみた。
どうしてだかは分からないけど。
あれかな、疲れのせいか甘えたくなってるのかもしれないな。
「速水さん?」
そんな私の言葉に驚いてるのか、変に思ったのかなかなか返事をしない彼。
なんちゃって、冗談ですよと私は紡ぎかける。
でも、そうする前に彼が返してくれた言葉も意外やいがい。
「うん、会いたいね。」
「え?」
「なんか俺も早く会いたい。
市田会ったらすぐぎゅーして。」
「……なっ。」
なんつー破壊力あることを…!
すぐに自分でもかぁっと頬が上気したのが分かった。
そんな私を無視して、
「あ、もう着く。」
一方の彼は冷静にぽつり。
「え!」
ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
どんな顔して目を合わせたらいいか分かんないだけど!?
すぐにブーンと見覚えのある車が駐車場に入ってきた。
私の目の前に彼は車を止めて、一言。
「着いた。」
「ばか。」
電話と、目の前と。
二重で確認できるそれ。
携帯をそのままに私は助手席にドキドキしながら乗り込む。
「あれ、ぎゅーは?」
間髪入れず笑いながら手を広げて見せる彼。
ネクタイも軽く緩んで、すっかり会社おわりの速水さん。
「し、しませんよーだ。」
まだ火照ってる頬を隠すように、彼の香りに酔いそうになりながら、カチッとシートベルトをしめて私は無視。
「つれないな。」
速水さんは少しだけ不満そうに、でも笑いながらいい加減電話切らないとねと通話終了ボタンを押して見せる。

